衆議院秘書協議会

国会議員の秘書に関する調査会答申

平成15年9月25日

国会議員の秘書に関する調査会

委 員  衞 藤 瀋 吉
同    上 田   章
同    岩 男 壽美子
同    上 村 直 子
同    高 山 憲 之

衆 議 院 議 長  綿  貫  民  輔 殿

「国会議員の秘書に関する雇用関係並びに給与制度その他」について、別紙のとおり答申いたします。

 

答   申

本調査会は、去る2月、衆議院議長から「国会議員の秘書に関する雇用関係並びに給与制度その他」について審議検討するよう、諮問を受けて以来、各党を代表する衆議院議員の公設・私設秘書等の意見を聴取し、各国の秘書制度についても研究するとともに、議員及び秘書に対するアンケート調査等を実施しつつ、今日まで13回にわたり鋭意慎重に審議を行ってきた。ここに、その結果を諮問事項に沿って左記のとおり答申する。

一、秘書制度の目的と本調査会の基本認識

国権の最高機関たる国会は、単に立法を行うのみならず、行政活動を厳格に監視するとともに、国民に対し、積極的に政策等を提示していかなければならない。しかるに、現在のように、国会の行う業務が広範、かつ複雑多岐にわたる中にあっては、政策形成、政党活動あるいは日程調整等日常業務において議員を補佐する者が必要不可欠なことは言うまでもない。いわゆる公設秘書制度が設けられたのは、国民の代表たる議員の立法・政治活動を補佐せしめ、最終的には国会の機能を万全ならしめるためである。
ところが、近年、こうした役割を担う秘書に支払われるべき給与が、秘書業務等に従事していない、もしくはほとんど秘書としての勤務実態のない者に支払われ、さらにはその支払われた給与が別の用途に流用されていることが露見し、大きな社会問題となっている。本調査会が設置された主たる目的は、こうした問題を解決するための方策を見いだすにある。
この問題に対処すべき本調査会には、二つのアプローチが見られた。一つは、現在の秘書制度は、若干の問題点が散見されるにせよ、基本的には深刻な欠陥はなく、かつ大半の議員もこの制度に居たたまれない程の不満はないと観察する立場である。このアプローチから見れば、最近の国民を欺く違法行為は非常に例外的なケースで、厳しく処断するとともに、運用の一層の厳格化を図ることを問題解決の最大の方策と考えるものである。
本調査会は、総体としては、こうした考えに立ち、雇用関係については現行制度を維持し、勤務実態のない者が公設秘書になることを排除するため、具体的には、後述する公設秘書の兼職や議員近親者の公設秘書への採用を禁止することとともに、給料表の一本化及び秘書の定年制等についても研究を重ねた。その結果最も大事なことは、公設秘書に関する情報を最大限公開することで制度の透明性を高める必要があるということになった。
第二のアプローチは、こうした対策は問題の表面に現出した事象のみを後追いする小手先の弥縫策で、問題の根本的な解決にはつながらないとするもので、秘書制度の根本的な改正を検討すべしとの主張であった。
この「根本的改正」論によると、現在の秘書制度は、議員の政治活動を十全ならしめるには余りに多くの問題点を抱えており、これを根本から直さない限り、秘書給与の流用等さまざまな欠陥は無くならないとし、これまでの一連の秘書給与流用疑惑は、議員と秘書の信頼関係の破綻からたまたま露見したにすぎず、氷山の一角にすぎないとするものであった。
この発想に従えば、現在の予算の範囲内で、秘書の員数及び労働形態を弾力化することになる。これは実際の広範な議員活動を見てみると、秘書の数が三人で足りているケースはほとんどなく、いわゆる私設秘書の存在なくして議員の政治活動を円滑に進めることはほとんど不可能に近く、この点の改革を避けて問題の解決は図れないとするものである。
さらに、この意見は、社会が高度化、複雑化していく中で、ほぼ終身雇用に近い形の一人の同じ秘書に多様な政策立案補佐を期待することは不可能に近く、現在のように、フルタイムの秘書三人を固定するというシステムだけでは議員のニーズに応えられず、議員に提供する秘書システムに大胆な「弾力化」を導入するべきだとする。具体的には、フルタイム制を緩和し、パート勤務を認めたり、弁護士、弁理士、医師、大学教授等に同時にアシスタントとして協力してもらい、秘書給与分から賃金で支払うという形があってもよいとする。議員のニーズは一つではなく、従来型の秘書雇用方式に加えて、さまざまなオプションを準備し、提供すべきだとするものである。この「弾力化」案は調査会内では有力な見解ではあったが、余りに現行の慣習や法的措置の根本的改変を必要とするものであるため、将来さらに研究とするとの意見に落ち着いた。よって本答申では第二のアプローチは採り上げない。

 

二、秘書制度のあり方と雇用関係

① 秘書の雇用関係について
本調査会は、基本的に政策担当秘書を含めて公設秘書制度を維持すべきものと考える。この制度は、現在の議員のニーズを適度に満たすと同時に、国の財政状況からも許容できる範囲内にあるとの結論に達した。
また、雇用関係についても、現行の制度を踏襲していくことが妥当であると考える。あわせて既に、平成2年12月27日に衆議院議院運営委員会で議決した「国会議員の秘書の採用及び服務に関する件」及び平成3年10月11日に「国会議員の秘書に関する調査会(以下、「前回の衞藤調査会」という。)」の答申の中で提言した「現行秘書制度の改善策」の内容を充分考慮の上、実効を期することを提言する。特に、解職する場合には、その理由を文書で示し、一ヵ月前に当該秘書に予告すべきである。
なお、現行の「政策担当秘書」という名称を改めたい。政策・立案・調査及び研究等のためのより重要なスタッフとしての自覚と責任を持たせ、かつ、これまでのイメージを払拭する観点から、一例として「政策補佐」ないし「議員補佐」に改称することを提案する。
また、公設秘書が、専ら地元における選挙運動に携わるような活動は秘書の任務としては望ましくない。

② 秘書の兼職について
本調査会は、秘書の兼職を含む服務について、従来から各議員の人事管理権の枠内で処理されてきたが、秘書の勤務関係の近代化とともにその清廉性と透明性をより高く図る観点から、秘書の兼業は原則として禁止することとしたい。ただし、兼職の許可をその秘書の属する議員から得た上、議長への届出を行った場合は、有給無給を問わず秘書の兼職を認めることができるとし、当該届け出た文書(兼職する企業、団体等の名称、有給無給の別、有給の場合はその報酬の額及び役職並びにその始期・終期を記載したもの)を公開することを提言する。
あわせて、議員及び秘書によるこの公開義務不履行の疑惑が発生した場合は、秘書問題協議会において、当該議員及び秘書についての調査を充分に行い、その結果により同協議会が決議の遵守の勧告等を行うことができるよう提言する。

③ 国会議員の近親者の採用禁止について
国会議員の秘書の採用は、議員自身の配偶者及び三親等以内(すべての直系、傍系の血族及び姻族を含む)の親族を禁止とすることを提言する。
近親者の採用が即、悪・不正というものではないが、従来より政治腐敗の要因の中に議員自身の近親者による不正行為が極めて目立つこともあり、国民の選良たる議員は、こうした疑惑を招かないためにも、近親者の公設秘書への採用禁止を断行すべき時機が熟したと考える。
なお、近親者を私設秘書に採用することまで禁止するものではない。

④ 秘書の苦情処理機関について
秘書問題協議会は、前回の衞藤調査会の答申により、秘書制度全般にわたる諸問題への改善策の審議検討を行うとともに、秘書の身分及び苦情等を取扱う公平審査機関として、議院運営委員会の下に同委員長を座長とし理事を委員とする構成で組織され、現在に至っている。
この常設された機関は、今後においても継続して積極的にその機能を果たすことを期待するが、その際必要に応じて、協議会に、秘書の当事者が答弁し、発言する機会が充分与えられるよう配慮されることを望む。

 

三、給与制度

①    現行制度の問題点と改革の方向について

②    年金、退職手当等のあり方について
本調査会は、今回の諮問事項の主眼となっている給与制度及び年金、退職手当等について議員に対する総額一括支給方式及び秘書手当方式(アメリカ方式)の採用は提言しないこととした。
すなわち、第一に我が国の国会は、大統領制に基づく厳格な三権分立制のもと、法律案の提出権が議員に専属している米国型の議会制度でないこと、第二に、我が国は議院内閣制を採っていながら国会議員に様々な職務を期待して多忙ならしめている。ために公設秘書に加えて私設秘書が並存して、55年以上にわたってこれを運営し、成熟させてきた歴史を尊重したいからである。
前回の衞藤調査会及び一昨年の「衆議院改革に関する調査会」の答申の内容においても新憲法下において長年培われてきた我が国の国会における秘書制度(給与、年金、健保、退職手当、公務災害補償等を含む)については、にわかに改変を加えることを避けているところである。
また、今般、調査会が行った衆議院議員及びその公設秘書を対象とするアンケート調査においては、総額一括支給方式及び秘書手当方式は、大多数が支持せず、かつ、国会議員及びその秘書をめぐる問題が起きたのは、「当事者の運用に問題があった」との見解を過半数が示していることを付記したい。
ただ、現行の秘書制度が三人の秘書の職分の違いを前提に、それぞれ異なる給料月額を支給しているにもかかわらず、秘書間の職務内容、程度、責任の度合等にそれほどの差が見いだせないのが実態である。よって、給料表の一本化、すなわち「通し号俸制」又は特別職の職員の給与に関する法律別表第三(大臣秘書官に適用される俸給表)の適用を提言する。
なお、秘書の名義貸し等の不正問題に鑑み、秘書の給与は、秘書本人に直接支給する法的整備を提言する。

③ 寄附について(公設秘書による寄附の実態と問題点について)
秘書による政党、会派、政治団体及び議員等に対する寄附については、寄附する秘書自身の任意の意思によるもので、かつ政治資金規正法及び公職選挙法等関係法規に則ったものでなければならない。
寄附は、性別、信条、宗教、門地及び公務員等々を問わず法規に則り、自由に行うことができるもので、自己以外のものから強制され、あるいは半強制的に行い得るものではない。したがって、秘書は議員と一心同体となってその職務を遂行する特殊な身分とはいえ、支える議員への寄附が当然に発生するものではなく、また、特別な法規をもって禁止できるものでもない。

 

四、その他

秘書の定年制については一層の研究を必要とはするが、一考に値する。
秘書の職務は、その身分は国家公務員の特別職でありながら、人事管理をはじめ、職務の遂行はその一切を議員の自由裁量に委ねられ、かつ、議員の任期満了及び衆議院の解散、選挙等身分の不安定性は極めて高いものがある。
換言すれば、秘書は議員と唇歯輔車・表裏一体を保ち、昼夜を分かたず労務に服し、議員の国政活動の円滑を図るためその礎となっている。そのため議員の職務、身分の変更は秘書の人生にも大きな影響をあたえている。
このように当該議員と運命を共にする性格をもつ秘書職務の特殊性を鑑みるとき、はたして秘書に定年制がなじむのか、各議員に人事管理権があるのに一律的定年を定められるのか、熟練した秘書能力と働く意欲を減退させてよいのか等の問題がある。
他方、議員の中には、秘書人事の刷新を試みたいがこれまでの長年にわたる当該秘書の功労や選挙区及びその後援会等の事情などに束縛されて、思うように行かぬことを嘆いている例もある。あるいはこれまでの政策担当の分野と異なる新たな分野への変更・転換による政策担当秘書の採用換えをしたいが思うようにいかない等の苦慮も見える。また、秘書の方にも年齢に伴う身体的重圧があるものの辞職の意思が容易に実現されないこと等を斟酌すると、一応の定年年齢を考えてもよいのではないかと思われる。
近時の社会的動向はエージフリーに向かいつつあることに加え、過去の秘書の採用年齢を見ると、その平均が一般の国家公務員の採用年齢より概ね10歳から15歳位高い。そこで、もし定年制を導入するとすれば、やや高めに原則定年年齢を70歳としてはどうかと考える。

 

五、おわりに

この度の調査会は、いわば二度目の衞藤調査会であり、既に前回の調査会において提言した事項も含まれ、実効措置を待つばかりのものもある。前回の提言の多くが実施に踏み切られていたならば、今般の本調査会の設置は必要なかったものと思われる。
国民の代表者が国政を担当するに当たって、その範となる行動をとらなければならないことは言うを待たない。国民の信託を受けその負託に応えるべき国会議員の活動を支える秘書の職務に衆議院は充分理解を示し、ここに答申する提言を慎重御検討の上、実効的措置をとられるよう切望する。

 

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